月夜見
 残夏のころ」その後 編

    “個性と芸術と?


今年の秋は何だか落ち着きがなかったというか、
気がつけばもう終盤という気配がすぐお隣に来ているような気候になっており。

 「こういう商売やってるとなおさらに前倒しだしなぁ。」

九月の初めに上着が要るような気候になり、
いやいやまだ早いってと昼間こそ例年寄りの気温に戻ったものの、
朝晩が冷え込むのを思い出させてくれて。
今度は まだ十月だったってのに
やっぱり…コートクラスのしっかりした防寒がいるよというほどの寒さをちらつかせ。
そのあとまたぞろ、いやコートは早いけどストールくらいは用意しときなよなんて、
前もって教えといてくれたような秋だったような。

 「で、もはやウチなんぞは、
  クリスマスやおせちの予約を取り始めているわけだしな。」

こちら『レッドクリフ』は 産直販売所というのが表看板じゃああるが、
ちょっとしたコンビニやスーパーよろしく
野菜以外の食品も並べている関係で、
スナック菓子や総菜パン、おにぎりにプチケーキやお弁当も扱っており。
となれば、そちらの業者さんたちから
“こっちもよろしく”と季節折々の商品もご紹介されてしまうというもので。
漆塗りの意匠だろう、格式ありげな深みのある黒を背景に、
黒豆だの数の子だのだて巻きだのの盛られた
赤縁のお重が厳かに主役を張っておいでのポスターを、
食料品売り場の目立つ壁へと貼った赤髪の店長さん。

 「一昔前だと、
  “おせちを店で買うなんて、何処のブルジョワなご家庭か”なんて言われたもんだがな。」

今じゃあ、その方が結果としては効率的というか、
手間や品数を考えたら買った方が確かだという考え方の方が一般的になりつつあるらしく。
百貨店で有名な料亭のを…とまではいかずとも、
ご近所のスーパーで予約して買うのもさほど珍しいことではなくなりつつあるようで。

 「ウチは商売だから、まま しょうがねぇが。」

まだまだお若い店長としては、こういう商戦もありと平気な顔をするかと思えば、
微妙にしょっぱそうなお顔をなさる。
脚立要らずでお手伝いして差し上げてた、背の高い副店長が、
彼にしても意外な文言だったか、おやと眉尻をかすかに持ち上げたが、

 「年末年始どころじゃねぇ、
  秋の行楽弁当とか、まだ隙間はいっぱいあろうになぁ。」

 「…っ☆」

七五三ケーキとか、千歳あめがセットになったお菓子セットとか、
そういうのだってお求めになる客層もいなくはないのにと。
つまりは、まだまだ秋の風情も居残ってるのに、
あまりの駆け足が勿体ないと言いたかったらしいシャンクス店長だったようで。

 「心配させないでくだせぇよ。」

急に仏心でもついたのかと、ぎょっとしたじゃあないですかなんて。
そこまでは思わなかっただろうからこその
辛辣な言いようをするベックマンさんだったのへ。
何だよお前、それが上司への口利きかなんて、
そちらもそこまでは思ってないからこその
破顔のまま軽口を叩いて応酬した店長さんだったとか。
大人の割に、いやさ大人だからこそだろか、
言葉面の奥に…悪く言ってなれ合い、よく言って相手への理解があってのこと、
こんなやり取りを余裕で交わすお二人だったようで。

 「秋といや、学生も行事が多い頃合いでしょうね。」
 「ああ。ルフィも運動会とか文化祭とかで引っ張りだこらしいぞ。」

天真爛漫、動き回るのも大好きというお元気溌剌ボーイの甥っ子が、
学校でも人気者なの、店長さんにも自慢であるらしく。
2階の店長室へ戻りながら、
どういうルートで仕入れたものか、
先日催されたらしい文化祭の話をご披露し始めたりするのであった。



     ◇◇


天真爛漫なお元気坊やとして、通っている高校でも注目株のルフィではあるが、
あれこれ器用にこなせるというタイプでもないようで。
所属している柔道部でも、
資質はあるが主将という器にはちと何かが足りないようなと、
その辺りは自他ともに認めてもいるらしく。
友達想いだし、人望がないというのじゃないけれど、
長として責任を負わせたり、後進の指導に回らせるより、
伸びしろ ありまくりな当人を、伸び伸びと成長させることへ徹した方が得策だろと。
ゆくゆくはお前が部を引っ張るのだからとか、後輩に恥ずかしくないようにだとかいう、
そっち方面の“指導”は顧問からも先輩たちからも一切されない辺り、
ある意味、ようよう理解されているといえて。
そんなせいか、大会にまつわる練習やら参加準備への調整進捗の把握だとかいった、
部活動への責任分担もないまま、奔放に育てられている秘蔵っ子ではあるが、
学校行事への参加となると話は別で。
彼ほど目立つわ人気はあるわ、おまけに行動力も半端ないという人材、
お祭り騒ぎにあって働いてもらわぬ手はないということで、
運動部ならではの模擬店を構えている柔道部としては、

 「俺、バイト先でドーナツとか実演販売してんだぜ?」
 「うんうん、それは知ってるけどね。」
 「厨房担当はもう先輩たちで揃えたし。」

体育祭と違って競いようがないかと思いきや、
学内投票での人気ランキングというのがあって、
優勝すれば部費を10%ほどUPしてもらえるとのこと。
消費税高騰の折、それは随分と助かると、他の部も血気盛んだそうだし、
合宿ならばウチで買い物していきななんて言ってくださる、
頼りになるOBが多いとはいえ、
それとは別の闘争心がくすぐられもし。
やるからには勝たねばと、妙に燃え上がってた部員の皆様だったそうで。
これだけ愛嬌のある人材を、何でまた
うどん茹でてる大なべや 焼きそばを掻き回す鉄板と
ただただ向かい合わせておかにゃあならぬ。
せいぜい目立つ衣装をまとっていただき、呼び込みさせたりお運びをさせて、
何だ何だにぎやかな出し物だなぁと注目集める素材になってもらうのが一番だとばかり、
例年通り(他の話か・笑) 仮装しての集客係を任ぜられ。

 「今年は何の扮装なんだ? これ。」

武将っぽいけど、何か微妙で。
小袖と袴の上へ羽織ってるのが、随分ズルズル長くてひらひらしてるし、
どっかの西洋の軍服みたいに、
たわませた組み紐をやたら下げたり渡したりした飾りとかあるし。
履物も草履じゃなくてモカシンぽいのは助かってるけど、
だったらスニーカーがいいなと言ったら、それへはダメだしされたし。
他の候補の絵を見せてもらった時は、
平安時代の着物の上へごちゃごちゃ武装してるのとか、
もっと軍服ぽい詰襟の洋装とかもあって、
そっちが着やすそうだからいいなって言ったんだけど、
女子部の先輩方が

 『衣装を提供してくれてる家庭科部の意向は曲げられないしぃvv』

とか言っててよ。
候補の絵にはやっぱり西洋の甲冑みたいなのもあって、
窮屈そうなそっちじゃないだけましかなと、
こっちで だきょーしたんだけれど。

 「…う〜ん。」

やっぱりなんか変なの、と。
掲示板のガラスの引き戸に映る自分へ
不本意ですとの意思表示の代わり、あっかんべしたくなってたルフィさんだったりし。
そんな彼へと視線が留まったそのまま
“きゃあvv”と黄色い声を上げかかり、
慌てて口を塞ぎつつ
それでも立ち止まるお嬢さんたちが多いことにさえ気がつかないで。
あ、2−Bはチョコバナナ売ってんだ、あとで寄ってみようとか、
やっとこ ガラス戸の向こうに注意が逸れていたところへ、

 「あ、先輩だ。」

聞き覚えのある低めの声がしたのへ反応しつつ、
構内配置図を拡大されてた文化祭プログラムを覗いてた視線、
ガラス戸に映り込んでた誰かさんの方へ焦点を絞りなおしたルフィさん。
いかにもな仮装をしている自分へと注がれている視線は1つや2つじゃなかったし、
それへは しょうがねぇなぁと慣れてきつつあったはずが、

 「…っ! ぞぞぞ、ゾロか?」
 「はい。お誘いありがとうございます。」

明らかに小柄で童顔なこちらの武将もどきさんより年嵩だろうに、
一応は後輩としての四角い言葉遣いをする、
ジャンパーにジーパンという飾らぬいでたちの屈強精悍なお兄さん。
髪も短髪だし、どうやら武道系の関係者らしいなと、
ルフィの側の素性を知っておればピンと来たかもしれないが。
単なる通りすがりには、
いきなり真っ赤になったこといい、
素っ頓狂な声上げて がばちょと振り返ったコスプレ坊やだったことといい、
一体どんな妄想を抱かせまくったことなやら。(笑)

 「ひ、一人で来たのか?」

確かエースが誘ってたのは聞いていた。
同じ搬入班同士、しかも今日は朝担当で、
早朝の搬入が終わったら夕方まで暇だろうよなんて それは上手に水を向け。
特に用事がないのなら、
ルフィが何か面白いことになってるらしいの冷やかしに行こうぜなんて、
その説明はどうかというよな云いようで一緒に行こうぜと誘ったらしく。

 「エースさんは車を停めに駐車場へ行ってるっス。」

先に行けと父兄配布のチケットを渡され、校門のところで下ろされたそうで。
結構人気の催しなのか、入ったそのまま人の波に押される格好でここまでを運ばれてきたらしく。

 “うひゃあ、俺 何か妙なカッコしてんのになぁ、
  なんか照れるよなぁ///////
  あ、でもゾロの方が似合いそうかも、
  いやいやもっと勇ましいのもあったよな、
  こう、胸元はだけた逞しい武将風のとか……///////”

…なんて。
どっかの腐女子を云えない、自分でもややこしいこと妄想しかかっておれば。

 「…あ。」

そんな自分をじっと見ていた頼もしい後輩さん。
ちょいと不遜にジーパンのポッケへ手を入れた格好のまま、
上体だけをこちらへ倒して
その視線をぐいと近づけて来たものだから、

 「な…。///////」

あわわと頬をますます赤くしてしまったところ、

 「ここのところ、もしかして先輩が描いたんじゃあ。」
 「え?え? あ、ああ、うん、そうだぞ。//////////」

やはり掲示板のケースの中へと貼り出されていたのが、
この文化祭のための大判のポスターの原画。
それは大きいキャンバス作品で、
誰でも描き足していいぞという寄せ書きみたいな趣向になっており、
ルフィも一角に落書きみたいなワンポイントを描かせてもらったのだけど。

 「赤い鳥ですか、なんか らしいようならしくねぇような。」

可愛いもん描いたんっすねと、
男臭いお顔をほころばせた彼だったれど。

 「…っ!」

言われたルフィの方はそれどころじゃあない。

 「え? お前、これ鳥に見えっか?」
 「ええ。…あ。違いましたか?」

俺、絵心とかねぇからすいませんと謝りかかるのへ、
いやいやそうじゃなくてだなと、がっちりした二の腕へと飛びついて

 「皆して、お日様だよねとか、毛玉だろとか、好き勝手言いやがってさ。」

そうじゃないって言ったところで、下手くそだよなぁって笑われるのがオチ。
いつだってそうだったから、
なんか説明するのもあほらしくなって放っておいたんだけど。
ちゃんと判る奴、いたじゃんかって、
しかもそれが、この気になる後輩くんだったもんだから、
小さな先輩さんの喜びようったら半端じゃなかったようであり。

 「え?」

ようよう見やれば、一体何の扮装なのやら、
手の甲への籠手もどきまで装備した、
徹底しているんだか、どこまで着飾られているのやら、
何だか妙ないでたちな先輩さんであり。
その恰好が、何といいますか…
凛々しいのと愛らしいのと足して倍増ししたような、
存在感たっぷりな目立ちっぷり。
おおう、何て格好ですかいと、
驚きつつ、微妙にドキドキしちゃった胸元なのへ
何とか落ち着きたくって…何故だか口許がひん曲がりかかったゾロだったとか。
そんな彼だとも気付かずに、
音がしそうなほどくっきりとした笑顔になって、
ルフィが掴んだままの二の腕を引いた。
こっちだおいでと先導してくれるつもりであるらしく、

 「そういや、ゾロって誕生日そろそろだったよな。」
 「え? あ・そういや そうっすね。」

何だよ、他人のことみたいにと、
あっはっはと笑った異世界の武将もどきさんへ。
通りすがりの、主に女子の人たちが、
きゃあきゃvv 何か雰囲気いいじゃないvvと
別の意味からも沸いた、
一か所だけ何か微妙な文化祭だったそうでございます。




  〜Fine〜  15.11.08.



 *うか〜っとしていたらうっかり忘れてしまいそうなので、
  そろそろ手をつけなきゃの、ゾロ誕記念ぽい(笑)お話をvv
  ルフィさんの仮装のネタは、
  某刀剣擬人化もののゲームネタを引っ張って来ましたが、
  実際、全然判ってない もーりんなので違ってたらすいません。


ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv

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